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2020年 中小企業の生産性向上支援

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2020年 テーマ2  『中小企業の生産性向上支援』

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士  本多 喜悦


2020年度 テーマ2  『中小企業の生産性向上支援』

論題
「中小企業の生産性向上支援」について中小企業診断士が対象とする中小企業・小規模企業の生産性向上を行うには、人と設備の 2 つの視点があると考えられる。この 2 つの視点でどのような生産性向上支援を提案すればよいかについて説明せよ。


1.はじめに
まず始めに国際比較ができる労働生産性の日本の状況を確認する。毎年発表されるOECDの資料からは次のようになっている。(OECDは38か国が加盟しているが、アメリカとの比較に絞って述べる)

米国と比較した就業者1人当たりの就業者1人当たり労働生産性(米国を100とした場合)
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
日本 66.0 65.4 66.5 67.3 65.3 65.5 65.4 64.0 61.5

上表から見るよう通り、ここ3年ではさらに差が拡がっている状況である。
最新の絶対値では2018年で米国132,127USドル、日本81,258USドルであり、加盟国の21位となっている。フランスやドイツよりも低く、時間あたりの労働生産性は主要先進7か国の中では最下位が続いている。
労働生産性の平均伸び率も米国0.8%(2010年〜2014年)の伸びに対して日本は0.6%(2010年〜2014年)であり、これが労働生産性の差の拡がりにつながっていると思われる。


2.生産性が低い要因
向上策を述べる前に、現場で中小企業に対していろいろ支援する中で私が考える生産性の低さの要因について述べる。その方が生産性向上策との整合性がより取れると思うからである。

(1)経営者の意識の弱さ
仕事柄いろんな経営者の方とコミュニケーションを取らせて頂いているが、これまで様々な難局を乗り越えてきている自信があるせいか、抜本的な改革を積極的に行って社内を変えようとする意識が弱い印象をもっている。
つまり、バブル崩壊やリーマンショックに対応して存続してきた実績があり、外部からの攪乱要因への対応処置には自信があるが、能動的に自らの組織を改革する意識が弱いと感じている。これがなかなか出来ていないと思われる。社長の高年齢化も要因としてあるのかもしれない。(2020版中小企業白書によると2013年70歳以上の社長の割合21.6%→2018年28.1%と増加している)
一言では、「人」、「設備」を視点にした生産性を上げるには攻めの経営が必要と思われる。

(2)それによって、管理職が生産性の高める意識や管理スキルを保有していない。
また、経営者を取り巻く管理者が生産性の向上という観点が薄いとおもわれて仕方がない。経営者の意識が弱ければ、管理者もその影響を受けることがやむを得ないが、どうしても日常業務をこなす(売り上げの増加、納期順守、工程管理、不良率の低減等)ことに注力している。
それによって、管理者にも生産性という意識の醸成が希薄になり、結果としてリスクの大きなことには踏み出せず、生産性の向上には繋がらない構図であると思われる。

(3)人材成長の仕組み、評価の明確が低い
生産性の分子にあたる付加価値は「人」や「設備」が生み出すものである。ここでは人に焦点を当てて述べる。
前掲白書によると海外の比較した人的投資について言及している。概括すると、能力開発費としてアメリカはGDP比2.1%(2010〜2014年)であるが、日本は0.1%(2010〜2014年)に過ぎない。しかもアメリカが1995年以降ほぼ2%前後で推移しているが、日本は減少している(1995〜1999年:0.4%→前述の2010〜2014年:0.1%)のである。個人責任が大と言われるアメリカと比較しても約1/20しかかけていない。イギリスやドイツ、イタリアよりも低い状況である。
これは、経営者や管理者の意識によるもので社員個々人の要因ではない。

(4)設備の新陳代謝が小さい
2019年中小企業白書によると、1990年には大企業も中小企業も設備年齢が同じであったが、その後設備年齢に差が出て2017年には大企業は1.5倍に対して、中小企業は2倍になったとしている。また、日本経済新聞2017年11月12日によると設備年齢として大企業6.4年、中小企業8.5年との報道があった。これは設備の更新期間が長くなって、最新の設備投資ができず結果として設備生産性が伸びない理由となっていると思われる。


2.生産性向上支援策
以上から、題意にある「人」視点と「設備」の視点で生産性向上策を述べる。
それぞれの定義は次のようになる。
前者は、労働生産性=付加価値/従業者数
後者は、設備生産性=付加価値/設備台数、若しくは =付加価値/設備稼働時間
分子の付加価値は、@営業利益+A人件費+減価償却費+賃借料+租税公課である。

(1)人の視点
「人」視点で述べると上述の@、Aに関係する。ここでは分母を小さくする視点より分子を伸ばすことに重点を置くこととする。
以下に「人」と「設備」に焦点をあてた向上支援策を述べる。
1)経営者、管理者の意識改革
 両生産性を上げるには、まず経営のかじ取りをする経営者や管理者の意識や日々の言動が変わる必要がある。
 経営者は、平時から常に両生産性を上げる組織体制を明確にイメージすることが出発点となる。自社の今後のコアプロセスはこれまで通りで良いのか進化・深化する必要があるのか、コアプロセスをさらに増やすのかなどである。それに必要な管理者像、社員像を明確にすることから始まる。
2)新分野への参入
新しいコアプロセスとして考えた結果、新分野参入の決定となる。2020版中小企業白書によると、新分野へ進出すると、しなかった企業に比べて労働生産性が向上したとしている。
新分野は現在のコアプロセスから離れた領域ではリスクが大であるので、周辺領域への参入が望ましい。例えばサプライチェーンの中流に位置しているのであれば下流へ進出するとか、上流へ進出するかである。前掲白書によると(上流+中流+下流)の事業領域を保有している場合が最も営業利益率が高い。
新たに進出したプロセスごとの労働生産性の変化では、素材・部品の開発設計が1,160千円/人伸びたのが最高であり、部品を製造している中小企業が多いので、発注者から図面を支給されるのではなく、自社が製造している部品の図面を自社で書くという参入イメージが現実的である。
3)単価の値上げ
中小企業は下請け的な立場が多く、発注者の指値で受注することも多かった。それが利益につながらず人件費も上げられないといこともあった。しかし、ここ1、2年にはドライバー不足でトラック運賃が高騰して、恐る恐る発注者側に値上げのお願いをしたら意外と認めてもらえたとの声があった。発注者にしてもサプライチェーンが途切れたら困るからである。
前掲白書には値上げ前の懸念と、値上げ後の影響についての調査結果が掲載してあり、値上げにより4割の企業が販売数量が減るのではと心配していたが、実際に減ったのは2割台であった。また、値上げしても販売数量の減少やリピート顧客の減少等などの影響がなかった企業が6割台であった。
 以上から顧客や発注者からみると、合理的な値上げ根拠や値上げ幅の妥当性があれば認めてもらえる環境があると感じたのではないか。つまり、これまでの価格を発注者が決めるのではなく、交渉して決めるという場面を多くすることが営業利益を増やすことにつながる。また、交渉するための材料(コアプロセス、製品の差別化など)として他社との比較優位性を保有しておくことは言うまでもない。
5)人材投資
 OJTによる多能工化ばかりではなく、管理技術、考える社員に育てるための投資を行うことは不可欠である。付加価値は「人」か「設備」が創出するが、一番の根本は「人」である。社員の成長のためには費用ではなく、今後は“投資”と考えることが肝要である。そうでないと付加価値を創出する優秀な社員が確保できないからである。
 具体的には、管理職教育、コアプロセスを深化・深化させるための知識の獲得、その人脈の確保等ある。管理職教育としては、財務教育やコーチング、プレゼンや心理学的な要素も必要なる。コアプロセスとしては国内・海外大学への留学、学会への参加、信頼できる企業への出向、産学官プロジェクトへの参画、各種Eラーニング等、いろんな手法がある。
 さらには、状況によって人事評価制度、処遇制度の改革の改革も必要になる、ここでは詳細は避けるが、付加価値を創出するような優秀な人材の評価が軽んじられていることが見受けられる。働き方改革が叫ばれている今日、人材投資と人事評価制度・処遇制度も見直しが必要である。
以上によって、営業利益を増やし労働生産性を増加することが肝要と思われる。

(2)設備の視点
1)点検、整備プロセスの見直し
 何といっても設備が稼働しないことには付加価値が生まれないので、故障を最小限にするには日常の点検や整備の考え方を変える必要がある。いわゆる事後保全から予防保全への転換である。
そのためには点検履歴や修理履歴を電子データ化して、何の機械がいつ頃どんな故障を起こすかの情報を見える化して、設備稼働を極大かすることである。
2)IOTの導入
 最近は中小企業の活用できるセンサーやIOT設備が入手可能である。MCのバイトの回転数をリアルタイムで監視して最適な加工条件を維持するとか、それを広げて生産計画と生産統制を一元化して全体最適な設備稼働を実現するとかである。
3)設備更新や新規設備の導入
やはり最新の設備は生産性が高く、省エネ型で環境配慮がなされている。前述のように設備年齢が高くなると生産性が伸びない。昨今は設備導入に対する施策(ものづくり補助金等)も充実しており、社員への刺激のためにも設備投資を継続することが肝要である。

3.まとめ
中小企業は経営資源が大企業に比べると劣っていることは否めない。しかし、中小企業特有な強力なリーダーシップによって大企業に負けない生産性を実現することが可能と思っている。それは前掲白書が述べている通り上位10%の小規模・中規模企業は大企業の中央値を上回っていることからも分かる。中小企業はもっと自信を持つべきであると思う。

以上






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