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平成21年度 テーマ2「中小企業の雇用管理」


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平成21年度 テーマ2『中小企業の雇用管理』

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士  本多 喜悦


平成21年度 テーマ2『中小企業の雇用管理』
地域小企業の賃金設計の一考察

1. はじめに
 昨年秋のリーマンショックが起きて、世界経済はもとより、地方に及ぼした影響が非常に大きいと感じている。グローバルなそして日本のマクロ経済については報道等である程度の情報は伝わってく るが、地方の中小企業の現状はその多様性等のため、一般化しにくいので、メディアも断片的であると思う。私は日常の仕事を通して感じることは、世界経済以上に地方の経済が変わるのではないかと思っている。それは、霧が晴れた時にはこれまでと全く違う景色になるのではないかとのことである。
 具体的なイメージとしては、2極分化が益々進む、革新や変化が出来ない企業の存続が困難になる、想定・計算・意図したリスクをとる企業とそうでない企業の格差などである。そのため、企業の管理運営も大幅な変化をしていかなければならないといことである。 いずれにしても、どの企業も画一的な管理活動では立ちゆかなくなるということである。 内外の経営環境の変化を見ながら、自社で考えて自社で決めて自社に合った管理活動をしていかなければならないということである。以前はキャッチアップやモデルというキーワードで、参考とする情報源があったがこれからはそれはないとの認識で経営をしていかなければならないということである。

2. 問題の所在
 本論文では以上の認識の元に雇用管理のなかでも賃金設計と それの関係する雇用管理(評価制度、 育成制度にも若干触れる) に焦点をあてて述べることとする。
(1)企業の質的変化
これは、経営環境の変化に対応するため、企業の質的変化が起きているということである。具体的には、順調な右肩上がりの業績のシナリオや実績が示せなくなってきたことや人件費の増加のための付加価値の増加が想定通りいかなくなってきたことなど世代間の信頼関係の薄まり等で、年功序列型賃金体系の維持の困難、終身雇用の維持の薄まり、退職金制度の重み等で賃金体系の見直しや新制度の導入の検討が必要になってきた。
(2) 社員の質的・意識的変化
これは、特に若い社員に言えることであると思う。現在の50代後半の社員は高度成長の良いところを少しは恩恵を受けたと思うが、30代、4 0代の子育て真っ最中の社員に言えることであると思う。逆に20代の社員は現在に肯定的な面があったりあきらめ的な部分、安定志向等の意識もある。
 いずれにしても、個人の側からすると会社に依存する意識が薄まったことは確かであると思う。以前は会社と社員は運命共同体的でアットホームな関係で上手くっていたと思うが、社員は自分でキャリアを積んでそれに対しての賃金を求めるようになってきたと思う。

*論点の整理
賃金体系の見直しの圧力が高まって来た論点を雇用管理全体を視野に入れて整理してまとめると下表のようになる。

表1 雇用管理制度の概要

雇用管理制度   これまで 今後
雇用期間 会社 終身雇用の名の下に、こ れまでは中長期的な安 定的さ見込めたので長 期雇用が維持出来た。  経営環境の激変により、終身雇用 の維持が以前より困難になりつつある。
社員 終身雇用には社員の側 も会社との信頼関係があり互恵関係があった。 社員からすると働く場が長期的に保証されていることは重要なこと なので、安定さからして望むところではあるが不安が募っている。
賃金制度 会社 中長期的な視点で運営出来たので年功型賃金体系を維持出来た。 誰もが少しずつ上昇する年功型が 困難になり、評価制度との関係で 崩れ始めている面が目立って来 た。
社員 若手で成果を上げている社員からすると不満 もあったが、年功型賃金 は全体的には上手く行 っていた。 業務が多様化高度化してきている ので、 その報い方としては年功型 は資源の有効活用と しては困難に なってきた。
評価制度 会社 あまり、明確な評価制度 持っていなかった。それでも年功型賃金等でカ バーしていたので大き な問題はなかった。 最大の経営資源の活用面からする と、 中小企業といえども明確な評価制度をもたなければならない社会的圧力が出てきた。 しかし、行き過ぎた成果主義や実力主義は職場内の雰囲気が悪くなり、業績にも影響を与えるのでその評価制度の内容に苦慮してい る。
社員 一部不満はあったが、長期雇用ではその不明確 さの中に安住する面も あった。 これから厳しい時代であることを 認識しているので、ある程度の評 価を受けることは理解している。 評価されることを積極的に受け入 れたい人とそうでない人の2極化 も出てきている。
育成制度
(教育・訓練)
会社 会社側が教育内容 ・費 用・時間を負担して丸抱えして育成してきた。 丸抱え的な面は弱まり、会社として出来るとを支援するスタンスに変わってきた。
社員 どちらかというと会社の方針に従って信用して寄りかかりながら育成されてきた。 社員のキャ リ アアップの意識の強化が求められ、自分で自分の能力を高める努力を求められてくる。

 以上によって、賃金体系を変える圧力が中小企業にも押し寄せているという ことである。 これに対応していかないと、企業の最大の資源である“人”の有効活用のための賃金体系の見直しや新たな設計が求められている背景と課題である。

3. これまでの賃金設計
 以上から、これまでの賃金体系の詳細をのべることとする。一言では年功型である。
 年齢や経験が積まれていくと賃金も上がる と言う仕組みである。そこには評価制度はあまり機能しない。させなくて済むというものである。
 業績が長期的に見込まれて、事業内容も画一的な大量生産型であったときには期待する社員像は協調型であまり個人の能力や多様性を必要としなかった。逆に個性的で自己主張が強い人は組織の中に留まることが出来にくい雰囲気があった。
 年功型賃金はイメージ的には下図のようなものである。

 図1. 年功型賃金のイメージ
年功型賃金のイメージ 
 例えば、 55才までは定期昇給があり賃金が伸びていく制度である。そして上図では55才以降は横ばいまたは下降していく体系である。これは55才までは原則社員全員がそれなり毎年あがっていく制度である。若い社員は働いている割には給料が少ない訳であるが、4 0代頃になれば仕事の割には給料が多いので若い時の少なさを取り戻しているという考えも出来る制度である。
 これでは、前述のように企業及び社員の両者の変化によりに維持が困難になり変わらざるを得なくなってきたということである。

3. これからの賃金設計
 以上から、今後の賃金設計としては、経験も含めた年功給、評価制度による評価給を組み合わせた設計が必要である。しかし、それは育成制度も含めたトータル的は雇用制度の中で運用しなければならない。決して賃金制度のみの運用では成り立たないのである。
 それらの関係を簡単な図2で示す。

 図2. 各制度の相互関係
各制度の相互関係図

 また、地方の中小企業が導入しやすい設計のイメージとしては下図のようなものである。

 図3. 年齢給のイメージ
年齢給のイメージ
 図4. 評価給のイメージ
評価給のイメージ

 図3が年齢給で図1よりもゆるやかな傾きであり、図4は評価給である。単純は図4であるが、考え方は行き過ぎた評価制度ではなく年功給との組み合わせ(合計)で総額を決めていくのである。評価給が成果、業績、能力を表すものである。中小企業にとっては、職能と成果を区別して評価することは運用上大変なので評価給にまとめた方が使いやすいと思われる。
 年齢給は所属している限り下がることはない。しかし評価給は定期的に評価することである一定の幅で上下する設計である。
 概要設計はこれでよいが問題は詳細設計である。その一案を次に示す。
(1)年齢給と評価給の割合
 これは、これまでの賃金を踏まえて、年齢給と評価給の割合を決めなければならない。例えば、前者と後者の割合を1:1としたなら、これまで20万円支払っていたら、年齢給が10万円、評価給を10万円とするということである。社員から見たら年齢給は固定的で安定しているから良いが、評価給は定期的に変動するから極めて重要な要素となる。また両者の割合を6:4と言うことであれば、年齢給は12万円、評価給は8万円となる。
 この割合を決めるのは社員に対しての見方など会社の考え方が反映されるので、極めて重要な意志決定要素である。
(2)年齢給の決め方
 これは、年齢が1才増す毎にその給与が決まるものである。それは一般的に用いる年齢給テーブルを作成して決めれば良いと思う。 しかし、そのピッチは評価給の細分化の程度とそのピッチとの相互関係から決めることが良いと思う。評価給は定期的に変動するのでその変動幅(ピッチ) が定められて、(表3において)1ランク下がった時、どの位年齢給がカバーするかである。
 中小企業の場合は、中途入社も結構ある。その時にそれまでの経験をどのように評価するかが非常に難しい。しかし、年齢給であれば自動的に決まり、それまでの経験は評価給で暫定的に評価して賃金総額を決めれば、運用しやすいと思う。
 例えば表2のような賃金テーブルを作成する。

 表2. 年齢給賃金テーブル

 年齢  年齢給
 18  75,000
 19  78,000
 20  81,000


 
 30  111,000
 31  114,000

(3)評価給の決め方
 この設計が一番難しい。中小企業では評価そのものが社長の一存だったり年功のみで決まっていた仕組みを変えるのであるから社内の文化や風土が変わるといっても過言ではない。
 例えば、表3のように単純な設計で評価表テーブルを作成する。

表3. 評価給賃金テーブル

 等級 評価給 
 1  75,000
 2  77,000
 3  79000


 
 13  97,000
 14  99,000

どのような評価でどのように決まるかは (6) で述べる。
(4)評価制度
 1)評価内容:これは、人的資質要素と職能要素、成果要素の3つのカテゴリーを項目化して評価すると良いと思う。人的資質としては、挨拶、協調性など仕事を進める上での基本的な心構え姿勢などである。職能は仕事を進める能力である知識、リーダシップ、コミュニケーション力などである。成果は一定期間に担当した仕事の目標達成状況や実績を評価するものである。
 2)評価の時期
 評価は半年毎がよいと思う。3ヶ月毎では落ち着かないし、1年では目標の進捗状況から補正したり計画変更など対応が取れないからである。半年ごとであれば、上期の状況を見て下期の対応を決めることが出来るからである。
 3)評価の方法
 評価方法は、自己評価、上司評価を基本として、その両者のズレが大きい場合は役員評価や社長評価とすれば納得性が高まると思う。このためにはその様式と評価基準を決めて評価者が共通の目線で評価出来るようにしなければならない。
 また、評価には特別な評価項目(例えば社長の裁量が効く範囲など)を用意して想定外の事象に備えるようにした方が良いと思う。
(5)育成制度
 今後は賃金と育成は相互関係を持つように有機的に運用しなければならない。図2に示したように、教育・訓練が業務に反映してそれが評価されて賃金・処遇につながるにつながる。そして、職制にしたがって教育・訓練も変わってくる。例えば一般作業者と課長では教育・訓練内容が変わるのである。それによって評価内容も変わる。この仕組みを設計して運用する必要がある。 また、運用出来る仕組みを構築しなければならない。
(6)運用
 表2と表3からの例からすると18才で新入社員は年齢給75,000円、評価給は1等級75,000円でその合計が150,000円が給料となる。そして、翌年から評価されて何等級になるかで賃金総額が決まる。また、20才なれば、年齢給は81,000円で評価給は評価内容によって決まり、その合計が賃金総額になる

4. 最後に
 これからは中小企業といえども、評価制度、育成制度を運用して賃金制度の設計をしなければならない。しかし、大企業と違って資源が豊富にあるわけではないので継続的に維持運用出来る制度でなければ意味がない。これから、公平性、納得性がより求められてくる。それに対応していかないと優秀な社員の定着・育成が出来ないからである。
 私たち中小企業診断士のそのような視点で雇用管理の支援をしていかなればならない局面であると思う。

以上




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