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平成27年度 テーマ2『中小企業の事業承継支援』


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平成27年度 テーマ2『中小企業の事業承継支援』

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士  本多 喜悦


論題:事業承継を経営革新ととらえ、親族内承継、親族以外の役員従業員承継、M&A承継の3タイプに分けて、各々比較しながら、事業承継が経営革新を起こす要因とメカニズムについて、さらに中小企業診断士として、それを成功に導くためのポイントについて述べよ。

1.はじめに
 題意にあるとおり、事業承継は経営資源が不十分な中小企業にとって大きな分岐点である。経験的にも実感するところである。現社長はこれまで自分の思いや情熱、使命感等の強力な個人的意識をもって組織を引っ張ってきたが、後継社長は育った環境、受けた教育、職業経験の違いにより、人間観や価値観等が異なる。そのために現社長の組織の風土や価値観が引き継がれない。新社長のカラーが当然出てくる。
 そこが、チャンスでもありリスクでもある。本書では組織を変える良いきっかけとするような経営革新につなげる事業承継について題意に従って述べる。

2.親族内承継(タイプ1)
(1)経営革新を起こす要因
 親族内承継で最も強い要因は、その承継の引継ぎの正当性である。前社長はオーナーでもあり経営者であるので、例えば専務であったがその息子が社長に就任ということであれば、社員のほとんどが納得して、組織内は乱れることは少ない。
 その場合は、20歳以上若返り新しい価値観で経営にあたることができる。ただし、若い分だけ人生経験や経営者としての経験が少ないので、意見する役割(現社長から会長になった親や幹部社員等)の機能が重要である。
 私の経験では、インタビューした会長は新社長のやり方を見ていてこれは失敗するなと分かっていても敢えて口は出さす失敗を経験させたことあったという。若いうちの小さな失敗という経験はそれが糧になることがあるということが分かっていたからである。
 このような本当に親身になってサポートしてくれる機能があると、新社長は委縮せずに経営にあたることができる。
 逆に、人間的資質として親の七光りや社長の権限を振りかざすような新社長では社員がついて来ないので、経営革新は起こせない。親族という強力な正当性がある分だけ、そして年長の社員も多い分だけ謙虚に誠実に学ぶ姿勢で経営にあたることが必須である。
(2)経営革新を起こすメカニズム
 若い分だけ前社長がやれなかった新しいことが出来る可能性が高い。例えば、新しい戦略的方向性(これまでは食品製造販売のみであったがレストランへの進出等)の設定や今日的経営管理手法の導入(例えば、ISO、HACCP、IT、P・D・C・A等)などである。
 それを実現するためのメカニズムとしては、新社長の前社長から引き継いだ経営にかける情熱等の強力なリーダーシップ、前社長にはなかった人的ネットワークに加えて、新社長をとりまく前述の意見を言ってくれる方の役割が重要である。
 しかし、一番重要なのは新社長を盛り立てようとする経営幹部である。この方々と新社長の信頼関係がどのくらい築かれているかが経営革新を成功させるメカニズムとなる。

3.親族以外の役員従業員承継(タイプ2)
(1)経営革新を起こす要因
 社内ではそれまでの仕事の内容や言動、人間性などが評価されて社長なったのであるが、この場合はカリスマ性や前社長との血族的つながりも無いことから、強力なリーダーシップは却って経営革新への成功を阻害する可能性も高くなる。
 そのために、新社長は権限をもっていても、経営幹部とのコミュニケーションを密にして丁寧な合意形成や情報共有を心がけて、最終的な意思決定を行うことが肝要である。そして、しばらく様子を見ながら自分にとって本当に信頼できる幹部を見極めることが必要である。
 また、将来に向けては自分なりの「経営ビジョン」を掲げて色んな場で説明周知して社内のベクトルの方向性を一つにする。リーダーシップが強かった以前のオーナー社長について行けば良いというような社員の依存意識から脱却していかなければならないからである。
 しかし、新社長は前社長との関係性は良い状態を継続する必要がある。この二人の信頼関係が崩れると社員は敏感に反応するからである。そのために新社長と前社長はお互いを尊重した大人の対応をすることが肝要である。
(2)経営革新を起こすメカニズム
 何といっても、幹部との密接なコミュニケーションによる信頼関係、前社長とのお互いの尊重する信頼関係が大前提である。この場合は、タイプ1よりも組織を合理的に仕組みや手順を駆使して、システム的に動かすメカニズムが必要である。そのためには、前述の丁寧な合意形成や情報共有が基本となる。
 また親族と違って、本気度が外部に分かるのは借入金の個人保証に押印する場面である。この行為の有無で会社を引っ張っていく覚悟が出来て革新が進む。

4.M&A承継(タイプ3)
(1)経営革新を起こす要因
 この場合は、会社を売却して買収した会社が誰を新社長にするかは買収した会社の意向にかかっている。例えば、買収した会社から新社長が送り込まれてくるかもしれないし、売却された会社の役員社員から登用されるかもしれない。後者の場合は前述の3.にも近いので、前者の場合を想定する。
 この場合は、社内の人間的しがらみやこれまで歴史的のネガティブな影響を受けない反面、これまでの社内のポジティブな面や取引先等を大事にしないとガバナンスが上手く取れなくなる恐れがある。一方、送り込まれてくる経営者としての力量はある程度担保されている。
 ゆえに、新社長に求められるのはこれまでの良い部分の組織や人間関係は尊重しながら、変えるべきところはドラスティックに取り組むことが肝要である。
 M&Aが実施されると売却された会社の社員は総じて不安を持つ。人員整理が始まるのではないか大幅な人事異動があってこれまでのキャリアが評価されないのではなど様々である。
 ゆえに、経営革新を起こす要因の第一は、社員の不安をなくして新社長との信頼関係を築くことが最重要課題となる。不安をなくすための要因としては、緊密で意識的なコミュニケーション、将来ビジョンの明確化とその周知である。
(2)経営革新を起こすメカニズム
 新社長は孤軍奮闘的に経営にあたっても効果は小さいので、やはり経営幹部としっかりコミュニケーションを取ってみんなで取り組む空気を作ることが重要である。
 また、新社長は親会社や以前いた会社を自慢したり、売却された会社や前社長を見下したりしては、社員が能動的は動かず経営革新はおぼつかなくなる。

5.上記3タイプの比較
 20年以上前までは、9割以上は上記2.のタイプであった。それが近年ではどんどん少なくなり、中堅企業では5割台に低下している。これは、グローバル競争の激化、技術革新の加速度的進展、サプライチェーンの変化等により親族であれば良いと単純な意思決定では企業の継続性の確率が下がるということを経営者は分かっているからに他ならない。
 しかし、税制上や組織継続の納得性や正当性からしても、意思決定の優先順位はまずは親族内承継を検討して、それが無理であれば親族以外の役員従業員承継の検討、それも無理であればM&A承継の検討という順番になっているのが、私の経験からも分かる。
 一番重要なのは、誰に経営をあたってもらえば利害関係者の満足感を極大化できるかである。他の地域や会社にいる息子はいるけれども、当社のことを何も知らないのにある日から突然に新社長というのはリスクが高い。
 どのタイプであっても新社長の経営者としての人間性や力量が問われるのはいろいろあるが、根本的は借入金の個人保証の押印の場面である。タイプ1は親族なので必然的に押印の確率は高いが、タイプ2の場合は本人が前述の本気度や覚悟が現れる。
 3タイプを大まかに比較すると次のようになる。評価はあくまでの相対的なものであり必ずということではなくて傾向的な評価である。

表:経営革新を起こすための要素の評価比較

タイプ1 タイプ2 タイプ3
組織の混乱程度
前社長との年齢差 タイプ1よりは小 タイプ1よりは小
社長就任時の意識程度 ある程度必然と意識している タイプ1より非常に大きく意識している
リーダーシップの形態 前社長の部分も引き継げるし、自分のカラーも出せる どちらかというと徐々に自分のカラーを出す  全く新しくても良い
コミュニケーションの取り方 これまで同様+α程度で組織は動く 経営幹部と情報共有や合議など意識的に丁寧な組織運用 組織に混乱を及ぼさない範囲で変えても可


6.中小企業診断士としてのポイント
 以上から、中小企業診断士として事業承継が経営革新を起こしそれが成功するように支援するポイントを箇条的にまとめる。
・承継前から現社長の相談相手として信頼関係を持っておく。
・税制度については関心事の一つなので、セカンドオピニョンを聞きたいと言われた時など紹介できるような人的ネットワークを持っていること。
・タイプ1やタイプ2の新社長については、経営者人材としてより育つように多角的(例えば、経営戦略の構築等)に支援する。
・タイプ3については、新社長と組織が融和的になるように第3者として支援する。
・当該組織の取り組むべき経営革新テーマを提案するとともに、その実施計画、施策も含めた具体的イメージを持ってコミュニケーションを取る。

以上




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