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平成28年度 新しい中小企業政策の動向


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平成28年度 テーマ1  『新しい中小企業政策の動向』

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士  本多 喜悦


平成28年度 テーマ1  『新しい中小企業政策の動向』

設問(1)ふたつのイノベーションうち、いずれかひとつを選んで、中小企業におけるイノベーションの促進のためには、どのような診断・助言(以下:支援と称する)が必要か、自己の診断経験等に基づいて論述せよ。


1.述べるテーマ
 私はプロセス・イノベーションを選択して以下に述べていく。その理由は私の支援経験では、プロセス・イノベーションの方がより成果をあげているからである。
 一方、プロダクト・イノベーションは取り組みは面白いが、経営資源の不十分さから成功と判断できる事例が少ないからである。
支援したが上手くいかなかったプロダクト・イノベーションの事例を2つほど紹介する。
【1】開発を断念して企業は存続している事例
 船舶の電装系の点検・オーバーホールを行っていた小規模企業が自分の製品を持ちたいということで、老人向けの(立ち上がりに便利な)電動昇降椅子を開発して、その販売支援を行ったことがあった。私が最初にそのデモや説明を受けたときは、私なりに何点か改善の余地があると感じたが、社長は技術者で自分が開発した製品に惚れていて、私の意見もなかなか聞いてもらえなかった。そこで、社長と一緒にユーザーとして想定した老人の声を聞こうということで介護施設や知り合いの老人宅を回った。その声として、安全機構等のいくつかの改善のテーマが明確になって本気となって取り組むにはお金と時間がかかり、それに取り組んだからといって販売力についても懸念があった。社長としては途中までは設計変更等に取り組んだが、結果として断念した。それらの状況から私も強くは引っ張らなかった。しかし、当該企業は船舶の電装関係で現在も存続している。

【2】開発を継続して廃業した事例
 一方、技術者社長が自社製品の開発を続けて、継続していた下請け組立からの付加価値額では開発資金を賄いきれず、結果として会社自体の廃業に追い込まれたこともあった。


 これらの事例から、特に小規模事業所の場合は、社長と開発者が同一人物のことが良くあり、自社の置かれた立ち位置が正しく見えなくなってしまうことがある。
 一方、プロセス・イノベーションの場合は、プロダクト・イノベーションに比べてリスクが小さく支援した成功例が複数あるのが実情である。また、以下では特に断っていない限り製造業を前提としている。



2.プロセス・イノベーション促進のためにどのような支援が必要か

【1】大前提としてイノベーションの結果の共通認識
 イノベーションの定義は各社違うので、当該企業の場合は“何がイノベーションなのか”を経営者と共通認識を持つことは重要である。それによって取り組み方が違ってくるからである。イノベーションはこれまでの延長線上の改善とは違うので、QCサークルや5S活動等から実現できるものではない。
 支援事例では、人の手作りから機械作りにするとか、電子部品を製造して中小企業が、自社製品の評価が出来なかったことが、電波暗室を設置してそれを使いこなす社員を育成して、電子部品から発生するノイズを測定して電子部品そのものを評価できるようになったりとかである。
 これらは、内部の製造プロセスや評価プロセスが大きく変わったことを示している。機械作りによって革新的な生産性向上や品質の安定性につながり、電波暗室を駆使することによって顧客に新製品を提案したり、独自の部品設計に活用もできるようになるという大きな変化であることについて共通認識をもつことである。

【2】イノベーションを実現するツールの情報提供
 経験的には、中小企業にとってプロセス・イノベーションを成し遂げるツールはある程度絞られると思っている。それは、中小企業は日常から不足している経営資源とも重なる面があると思っている。それらは次のようなツールである。
・コンピュータを利用したツールの情報提供:MRP、IOT、自動倉庫、(画像等の)自動検査装置等
・人材育成情報の提供:イノベーションを実現するためには社長以外の社員の育成が不可欠である。そのために、MRPの考え方、セミナー情報、自社のIOTにはこの考え方でとか具体的に提示して、育成に資源を使ってもらうための情報提供

【2】プロセスの明確化、システムの俯瞰
 ここからが具体的な社内のイノベーションのための支援となる。中小企業は傾向的に歴史的にあるいは属人的にプロセスがあまり意識しないで出来上がっていることが多い。製造業であれば、受注→生産計画→生産指示→製造→最終検査→在庫→出荷のプロセスが一般的であると言えるが、その具体的プロセスはそれぞれ会社で特徴がある。そして、それらのプロセスの4Mを明らかにしていくと、色んな課題が浮かび上がってくる。例えば、受注から生産指示までが、手作業でそれぞれ遂行しているとすれば、受注時に受注番号を付与すれば出荷まで一気通貫で使えるのではと推定するのである。
 それらのプロセスを明確にして受注から出荷までの流れをフローチャートにしてシステム全体を俯瞰すると、イノベートする範囲や対象が見えてくる。
 例えば、資材発注時にはMRPが使えるのでは、検査では外観は画像検査装置が使えるのではないかとかである。
 それらのプロセスやそのつながりが把握できると、プロセスの割愛や合体等も含めてシステム全体を見直すきっかけにもつながる。

【3】各プロセスを構成する監視・測定の明確化
 現状でも、例えば工程内検査を行ってその不良率、生産量の把握等各プロセスのアウトプットで、何かしらの監視測定を行っているはずである。イノベーションの実現のために設備投資やプロセスの変更(プロセスの割愛や合体、つながり方等)を実施する際に、その成果を確認するときに、どのプロセスで何を対象に、どのタイミングで監視測定するかを明確にする支援が必要である。

【4】以上の問題点、課題の探索
 以上から、さらなる全体最適に向けて、どのプロセスに何を導入してプロセス・イノベーションを実現するかを、投資対効果も含めて探索することができる。また、複数の提案や支援も行うこともできる。

【5】各種情報の収集
 上記の支援のためには、日常からの企業の観察と中小企業も使えるツール(ハード、ソフト等)、その調達・ランニングコストに対する情報のアンテナを張っておくことが必要である。






設問(2)中小企業におけるイノベーションの促進のためには、国・自治体が重点とすべき施策について自己の主張・見解を述べよ。

 イノベーションを実施するにあたっての中小企業のニーズを捉えなくてはならない。中小企業白書など各種情報からは、中小企業がイノベーションに行うに際し課題として挙げているのは、大きく人的資源と資金調達の2つである。また、私の支援経験も含めて施策の受け手である中小企業のニーズを明らかにして、今後の国や自治体が重点とすべき見解を述べる。

【1】人的資源について
 これは、イノベーション以外の事象でも良く出てくる資源であり、特にイノベーションでは未来投資でもあるので社長以外の社員への人的投資が不可欠である。
 少し古くなるが、2009年版の「中小企業白書」55頁には“イノベーションの実現に向けて活動している企業における課題”として中小企業の回答のトップは“適切な人材の維持・確保が難しかった”で28%であった。
 中小企業はこれを欲しているので、人材投資に係る施策をこれまで以上に重点とすべきと考える。確かに、無形の人材投資にかかる施策の制度設計は難しいが、キャリア形成助成金の歴史もあるので自治体でも真剣に考える必要がある。
 ただし、今後の施策は成果をより重視して、こんなセミナーを受講させたというような実施した手段の実績ではなく、結果(例えば、新たに習得した知識や知見を活用して実現したイノベーションの実績)に対して、施策を実施すべきと考える。

【2】資金調達について
 これも中小企業にとっては永遠の課題であるが、これについては昨今の“ものづくり補助金”も高度生産性については(IOTも含めて)3,000万円まで行うなど大分充実していると思っている。また、私が在住している山形県では、国の補助金が不採択になった企業に対して申請計画内容を(見直すなど)リフレッシュして「山形県中小企業トータルサポート補助事業」として、リトライの施策も用意してイノベーションを促進する施策を整備していることは評価される。
 ただし、いずれも計画内容の審査という入り口のフィルタリング(採択・不採択の決定)であるので、公的資金を交付する上で、今後は付加価値額の推移や納税状況などより実績を重視した制度設計が望まれる。

以上






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