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平成28年度 新しい中小企業政策の動向


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論文 テーマ2 『サービス業の生産性向上支援』

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士  本多 喜悦


1.はじめに

 題意にある通りに、サービス業における生産性は製造と比較すると低い現状にある。各種統計が発表されているが、例えば、「サービス産業の高付加価値化・生産性向上について」(経済産業省商務情報政策局2014年1月20日)によると、2012年の一人当たりのGDPでは製造業は約900万円(2002年比2.6%増加)であり、サービス業(金融保険、公務を除く)は約700万円(2002年比5.7%減少)である。
 この背景は、付加価値の創出の競争条件や方法や創出場面が両者では異なるので如何ともし難い面があるが、これらの違いを大略すると次のようになる。
但し、下表は傾向的な特徴を表したもので絶対的なものでもなく確定的なものでもないことに留意して頂きたい。



 [表] 製造業とサービス業の傾向的特徴
要素 (サービス業と比較した)製造業 (製造業と比較した)サービス業
競争条件 グローバル 地域的要素
地域密着性 サービス業と比べると弱く、逆に販売エリアが広い 製造業と比べると密着性が強い
顧客ニーズ 明確(例えば、寸法精度など) 明確さが弱い
プロセスの標準化 進んでいる 進んでいない
在庫 効率的に生産して在庫可能 基本的に生産と消費の時間間隔が短く(同時性)、在庫は不可能


 製造業はグルーバルな競争条件にさらされながらも、生き残っていくために生産効率向上や販売拡大に努力を続けてきた。それらの要件が相まって生産性を高めてきたといっても過言ではないか思う。
 しかし、今後のサービス業でもますますのグローバル化や消費者の意識・購買動向変化や技術革新等から、製造業の培ってきた管理手法を導入すれば、これまで以上に生産性が高まるとも言えるということでもある。

2.生産性の定義の確認

 平成27年1月に経済産業省が発表した「中小サービス業の生産性向上のためのガイドライン」の次の考え方による。

(1)1人あたりの付加価値額=(営業利益+人件費+減価償却額)/従業員数
(2)生産性向上=付加価値額/効率

特に(2)については、製造業では当たり前のことであったけれどもサービス業ではあまり意識してこなかった生産性向上が算式で表されており、私としてはこれに賛同するので、本論の応用可能性も(2)の効率を上げるか(以下:分母)、(2)の付加価値を上げるか(以下:分子)の論点で述べることとする。

3.製造業の生産管理手法の応用可能性の所見

 ここからは具体的に述べる。

1)5Sの応用可能性
 5Sは製造業にとっては必須のことであるが、サービス業にとってはあまりなじみが無いと思われる。製造業は顧客監査や工場監査で鍛えられており、色んなノウハウがある。サービス業は製造業に比べると属人性が高いので、ここを組織として意識することで、生産性が高まると判断される。
 上記の分子に寄与して、分母にもつながり生産性を高めることができので、十分に応用可能性があると思われる。

2)ITの活用
 これまでは各種情報(例えば、顧客名簿、購買履歴等)は、紙ベースやエクセルで管理してきているが、今日的にはIT技術を使って分子に寄与するようなツールの可能性が高まっている。製造業は、CAD/CAM等で大分ITが進み現在はIOTで製造データを収集して品質分析や安定に繋げているが、価格も下がっているのでサービス業もITをより活用できる可能性が十分にある。
 例えば、SNSの活用、クラウドを使った情報共有と管理、Webからの予約受付等である。

3)多能工化
 サービス業は属人的な要素が色濃く、“その人なりのやり方”が重視されて、組織的な能力開発的意識が薄かったと理解している。ゆえに、その人がいなくなると、その伝承ができていなかったり、スキルのカバーやバックアップが不十分であり、リスクを生じやすい業種と判断している。
 一方、製造業は顧客ニーズが明確(寸法、性能等が客観的データ)であるので、それを実現するのに“その人”がいないから納品できないでは、企業の存続が危うくなる競争条件にある。そこで、製造業は以前から一人一人の守備範囲を広げるという“多能工化”を組織的制度として取り入れて運用してきた歴史がある。それが、組織のリスクヘッジにもなり、個人の能力開発にも機能している。
 サービス業でもいわゆる“多能工化”との視点で応用可能性があると思っている。実例としては、有名な星野リゾートでは、従業員の間にあった仕事の境界線をなくし、フロント、清掃、レストランなど食事処のサービス、調理といった各業務すべてを全員がローテーションで体験。各自、複数の仕事を覚えていく制度を導入して、生産性を大幅に向上させている。
 これによって、業務の手待ちが少なくなり、分母・分子に貢献することになる。

4)4M管理
 サービス業では、(製造業ではプロセス管理としては当たり前の)4Mの管理をあまり意識してこなかったと思っている。サービス業は“人的資源”に依拠する面が多いので、そればかりを意識してきたきらいがある。“人的資源”も4Mの一つであるが、他の3M(方法、設備、材料)を今後意識して管理していくことも、もちろん応用可能性があると判断している。
 例えば、クレームが発生した場合でも、人的教育ばかりではなく、原因の探り方としてサービスの提供方法に問題がなかったのか、設備がクレームを誘発しているのではないかも含めた管理手法を導入することによって、クレームを発生しにくい状況を作り出すことができるようになる。
 これによって、分母・分子に寄与することになる。

5)自動化や設備投資
 製造業は、生産性を高めるために主に効率(時間短縮等)ために設備投資は必須のものとして意識して対応してきた。サービス業はその取り組み方が不足していたといえる。ただし、メーカーの方でもサービス業向けの設備はその機能の多様性や需要の関係から開発をあまりして来なったという面もあると思う。
しかし、今日はコンピュータ技術を中心に大分進んで来て価格も低下していることからサービス業が必要としている設備が出てきており、効率を高めている現状も出てきている。
 例えば、ホテルでは自動チェックイン機、またハウステンボスではロボットがフロント業務を担っている。居酒屋チェーンでは、テーブルにタブレットを用意している例もある。旅館で有名な和倉温泉加賀屋では、温かい料理は冷めないうちに部屋まで運ぶために自動搬送システムを設置もしている。この効果として仲居さんが本来の付加価値を生む顧客との接触時間が多くなるとともに、仲居さんが運んでいたころに比べて食器を割ることもなくなったという。
いずれにしても、サービス業は設備投資や自動化について今後はより強く考えていくことが製造業と同様に必要になってきているし、その応用可能性も広がっていると言える。
 これは、まさに分母・分子に貢献する。

6)スキルの明確化
 サービス業は“人”に依存する要素が強い為、人格も含めた人間性ややる気という側面が強調される傾向にある。
 しかし、サービス業もプロセスで構成されたシステムなので、そのプロセスからアウトプットを生み出すスキルの明確化がこれまで以上に重要となる。スキルが明確化されないとサービスの品質が安定しないで、付加価値の創出や効率が安定せず、結果として生産性が低下してしまうこととなる。サービス業の共通的なスキルとしては、“コミュニケーションスキル、”、“笑顔”、等があるが、それらを自社に合った内容で明確することである。これが、後述する人材育成の具体的ツールにつながり、サービス品質の安定と確実さとなっていく。また、スキルの明確化は前述の多能工化とつながっており、そして、これは分母・分子に寄与する。

7)人材育成(スキル伝承)
 スキルを明確にすると、それをもとに現状のスキルを把握して、多能工化も含めた人材育成に活用することができる。しかも、それは伝承計画にも利用できる。さらに、進めればコンピテンシーを明確にして、サービス品質を安定や向上に繋げることができる。製造業は以前から人材育成と伝承には意識してきた分野なので、十分にこれも応用可能性がある。

8)プロセスの明確化及びシステム化、標準化
 最後にサービス提供全体を捉えた応用可能性の所見を述べる。これまで何回か挙げたようにサービス業は“属人的”要素が多いという前提で、製造業のようにプロセスの明確化やシステム化(コンピュータ化やIT化のことではない)の意識が弱かったと思う。つまり、あの人に任せる、この人に任せるという感じである。ゆえに経営者は人によって違いをある程度認めたり、諦めたり、消費者も運が悪かったとか良かったとかで済ませていた面があると思う。しかし、(小売業ではあるが)コンビニがプロセスの明確化、標準化を進めて、システム化したきた。なので、サービス品質が安定して消費者も安心してどこのコンビニでも同じようなサービス提供が出来て、受けられるようになった。
 サービス業は、これらの例を学んで自社のサービスとは何を提供するのか狙う顧客の明確化を行って、そのためのプロセスを明確にしてシステム化、標準化を行う必要がある。
 ここでいうプロセスの明確化とは当該プロセスの目的、インプット、期待するアウトプット、構成する4Mを明確にするということである。この取り組みによって、効率を阻害しているものは何か、改善する対象は何か、教育する対象は何か等を明確にしてきた。これらはプロセスを明確にしないと出来ないからである。明確にしたプロセスのつながりがシステムであり、それが出来上がると標準化につながる。
 製造業はまさにこの歴史といっても過言ではない。サービス業もこれに学んで応用していくことが、分母・分子に寄与して生産性を高めることにつながっていくと考えている。




以上






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