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論文7『失われた30年の原因と対策』

2022年3月掲載

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士 本多 喜悦

※ 掲載論文の無断転載、無断使用はお断りしております


0.問題意識

 ここ30年間の各種の日本の経済統計の数字は絶対的にも海外との比較としても相対的に低迷した。それは、中国をはじめ諸外国の経済力が増したと言えるが、国内としては、昭和の高度成長期を実現しえた機能や要素の有効性が低下したからとも言える。それに昭和の終盤期に気付き、社会や企業も含めて日本全体が変化すれば違っていたかもしれない。
 その対応を怠ったゆえに必然であったとの理解も出来る。原因は明確なので今後挽回できると思っている。以下に私論を述べるが、その全体を貫いているキーワードは“変化の少なさ”である。

1.原因

 次のことを考えている。
(1)日本人の意識が変化しなかったこと
 前述のように昭和時代の高度成長が上手く機能し、国全体のGDPの増加、国民1人1人の生活向上を果たしたので、昭和が終わったとしても日本人の意識は変わらず、何とかなると思っていたと言える。
 黒船来襲や先の大戦の敗戦のような強烈なインパクトがあると意識や言動が変わるが、ゆっくりで“ゆでガエル的”な変化であると、楽観的な気質が頭を持ち上げて、小手先な対応で終始する
 特に教育制度でいえば、戦後の教育制度を今日まで引きずり、高度成長期には機能した人材育成プログラムが昭和の終盤以降は、その有効性が低下したことは明確である。
 以上をキーワードで表現すると”アニマルスビリッツの減退”、”大過なく定年を迎える意識”、”TQCやQCサークル等の例のように(改革では無く)改善活動の礼賛”、”同一企業で長く続ける美徳“、”人材投資の軽視“等が挙げられる。
 昭和60年の円高、冷戦の終焉、インターネットの開始など、世界との関係性や情報の流通等で、世界における日本の相対的地位の変化の要因が明確であったが、日本人の大多数の意識が変わらず、政治・行政も変わらず、今日に至ったと考える。

(2)グローバル化の進展
 実は昭和60年頃の円高については、その当時中小企業も海外に出て事業するように政策が打ち出された。 これは実はグローバル化の進展と言う名のもとに物流が盛んになり海外とのやり取りも盛んになって国内が空洞化する原因となったと思う。
 貿易額としては徐々には伸びているが、海外移転した工場や企業からの輸入が多くそのぶん国内の中小企業の仕事が減少してしまうとともに、国内工場が少なくなる空洞化が進展した。

(3)旧態依然の制度、仕組み
 日本人の意識と密接に関係して、日本の社会制度や仕組みの変化量が少ないことは多くの人が同じ思いであると思われる。
 具体的は、憲法は戦後一度も変えていないし、教育制度も6334制、教育委員会など背骨には変化はない。夫婦別姓についても議論の域を出ていない。税制についても個人中心というより未だ世帯に力点を置いている状況がある。
 民間企業においても年功序列、年功賃金、退職金、企業内組合など高度成長のエンジンとなった制度が色濃く残っている。
 未だに転社・転職のリスクと機会を比較すると、多くの労働者にとっては総合的にはリスクの方が大きい社会である。
 これらが、日本の変化を阻害して、他の国々の変化がその果実を受け取り日本の相対的低下に陥ったと思われる。

(4)人材育成の軽視
 学校を卒業して会社に入ってからの社員育成についても体系的で期待する人材像を明確にしないで、ここまで来たと言える。
 長い期間をかけてのOJT、1社依存のライフスタイルで長年勤めれば、先輩や上司の背中を見て育ったと言える。
 逆に見れば、昭和の終盤までは、日本は社員が育つまでの時間の猶予を持てる時代であったといえる。

(5)消極的な設備投資
 バブル崩壊後、リーマンショック後は財務基盤を厚くすることに力点を置いて、世界の潮流であるITCや最新の設備への投資を控えて内部留保に努めてきた。その結果の日本企業の内部留保の多さや財務基盤の強固さはご承知の通りである。
 しかし、その影響で生産性は伸びずにここまで来た。各種統計にある通り特に中小企業の設備の更新期間は長くなって直近の中小企業白書では10年とのことである。

 以上の結果、国全体、国民全体の意識が世界の潮流から乖離し、産業構造の変化も少なく社会の変化も少なく、生産性が伸びず付加価値や賃金が置いてきぼりとなったと言える。

2.生産性向上の対策

 次に今後の対策を述べる。原因が分かれば対策の焦点は当てやすいが、社会や意識の変化というと、一朝一夕にはいかず政治的分野にも関わってい来るので、以下では企業や個人ができることを中心に述べる。
 とにかく生産性を上げなければならない。労働生産性である。その方策を具体的に述べる。
(1)人材投資への注力
 高度成長期は謂わば野球型やオーケストラ型の人材で良かった。監督や指揮者が目的を遂行するためにそれぞれの役割者に指示をして、指示を受けたものは自分の専門スキルでや役割を果たしていくイメージである。
 しかし、今日的にはサッカー型やジャズ型の社員像であると思われる。監督は大まかな戦略や方向性が示すが、あとはグランドで選手が状況を見ながら判断して行動していく姿である。それには、教育の方策や求める人材像が変わってくる。情報収集や意思決定を自分で能動的に行う自立した社員を育てなければならない。詳細は避けるが指示待ち社員は不要で、目的達成のために言動する社員への育成である。
 これまでのようにOJTや先輩の背中ばかりでなく、専門分野のみならずアニマルスピッツを持った経営者的感覚を持たせる社員の育成投資である。

(2)技術開発と設備投資
 他社や海外に負けない(サービスも含めて)技術開発投資を保有する経営資源の可能な範囲で行うべきである。併せて、それを具現化する設備投資である。原因でも述べたように特に中小企業の設備更新の期間が長く最新の生産性の高い設備の導入が低い。これには後継者問題等もあるとは思うが、血族に頼らない継承も多くなってきたので、積極的に設備投資を行った方が生産性は高くなる。

(3)さらなるグローバル化の進展に伴う自社事業の価値提供のさらなる突出化
 TPP、RCEPなど海外との貿易はますます盛んになることは間違いのないことである。国際分業、水平分業などが進展している。
前述の物流や情報流通の増大は日本の経済力の相対的低下を招いたが、今後はそれを活用していかなければならない。
 そのためには、自社事業の目的を明確にしてその提供する価値(製品、サービス等)については他社にない強みを持たせ、戦略的に取り組む必要がある。ここから先は各企業によって異なってくるので詳細は避けるが、これまでのように総合的な事業では世界には通じないので、他社には尖がった事業形態が生産性を上げることとしては必要なことは、日本の家電メーカーが教えてくれている。

(4)会社内部の諸制度の変革
 原因でも若干述べたように、高度成長期は機能した社内の諸制度の有効性が薄まってきているので、その変革は当然必要である。具体的には次のようなことである。
 目的達成のために必要な仕事やプロセスを明確にして、その遂行に必要なスキルを明確にして、求める人材を明確にする。いわゆるジョブ型雇用の明確にする。その上での人材育成、評価処遇制度にして、モチベーションの高い社員の集団にすることが肝要である。
 それによって、会社への帰属意識がこれまでより薄まるかもしれないが、仕事への忠誠心が高まり、会社の魅力が無くなったら転職の可能性が高まる制度でもある。社員と会社の運命共同体の意識が薄まるが、目的達成や貢献意欲が維持・誘発される職場づくりが求められてくる。

以上

 

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