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中小企業診断士 資格更新論文

平成26年度(2014年) テーマ2「中小企業の事業継承支援」

 

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士 本多 喜悦

※ 掲載論文の無断転載、無断使用はお断りしております


平成26年度 テーマ2『中小企業の事業継承支援』
論題:事業承継支援における中小企業診断士の果たすべき役割は、経営診断の専門家としての役割と他の専門家を繋ぐコーディネータとしての役割があるが、それぞれの役割について具体的に述べよ

1.結言
 事業承継については、税の問題が前面に出る傾向があるが、それは引き継ぎする人が決まってからの課題で、第一義的は当該事業を営む(法人か個人を問わず)経営組織のトップとして、誰がふさわしいかあるいは、買収・統合なども含めたどのように事業を継続していくかの課題である。また、事業の継続が不可能若しくは継続することがふさわしくなければ廃業という決断をする場面もある。
 そのような局面はまさに総合的判断であるので、特定分野の専門家ではなく謂わば経営の総合的専門家である中小企業診断士の役割は大である。
 そのためには、家族に話せないことも話してもらうような信頼関係を築いて、現経営者並びに新経営者とも継承前、継承後もコミュニケーションを取れる関係が必要である。
 以下に論題に設定された役割を述べる。

2.経営診断の専門家としての役割
(1)経営診断を行って今後に備えることを支援する役割
 承継にあたっては、当該事業所がどのような経営状態かを経営者自身と外部の評価がある程度共通認識を持つことが出発点となる。そのためには、当該事業所の経営実態を第三者が把握することが重要である。M&Aのような事業の売買における価値算定の前に、経営体としての強みや弱みなど事業継続性の観点からの診断の視点である。
 その役割としては中小企業診断士が適切である。また、その機会に経営者との信頼関係を盤石にする場でもある。
 ここで、経営者からこの診断士は相談するに値するとの評価を得なければ意味がない。故に、経営診断は次の機能を持つ。
[1]事業体の評価を行う場面
 経営者の経歴や考え(理念、経営方針、従業員に対する人間観、職業観等)も含めて経営の次の事について分析・評価する。
・決算書や金融機関も含めた財務分野
・顧客を含めた販売分野
・製造業であれば技術分野、生産性、付加価値分野
・仕入れ先、外注先などの購買分野
・株主構成のあり方(株式支配権に関係して株主総会の議決権と密接になってくる)
 以上から、社長自身の人間性や価値観、当該事業所の強みや弱み等を診断して、社長に伝える。
 それらは、社長の事業継承についての意思決定のための参考情報となるので、非常に重要である。
[2]今後の経営のあり方の考えを整理して、明確にする場面
 [1]によって過去や現状分析が明確になり、今後の経営の方針や戦略が描けるようであれば、次の経営者もやりやすくなり、引き継ぎが円滑に進む確率が高くなる。
 しかし、ここで注意しなければならないことは、現経営者の方針や戦略がそのまま次の経営者が引き継ぐかどうかは、現経営者と新経営者のバトンタッチのやり方で変わるからである。それぞれ次のケースがある。
ア)現経営者の考え方、方針を新経営者が了解してそのまま引き継ぐ場合
イ)現経営者の考え方、方針を踏襲しないで、(現経営者がそれを了解して)新経営者の考え方で取り組む場合
ウ)現経営者の考え方、方針は特に新経営者に明示しないで、新経営者の考え方で取り組む場合
 但し、ウ)の場合であっても現在の事業体の将来像が描けないと、先行きがない会社と誤解されてしまう。
いずれにしても経営者と中小業診断士は、一緒に中期計画を作成して今後の経営の一例を示す必要がある。
 しかし、それをどう利用するかは新経営者の考え一つである。
[3]それにふさわしい経営者は誰か、あるいはふさわしい経営組織について意見交換する場面
 今後の経営について先行きが見えたら、後継や事業体の引き継ぎをどうするかを経営者と一緒になって考え、意見交換を行う必要がある。後継については下記の場合分けが出来て、それぞれの場合で中小企業診断士の役割を果たさなければならない。
ア)後継者が決まっていて、直系の子息の場合
 この場合が中小企業診断士としては一番役割としてはやりやすい。私の経験でもそうであった。社長から信頼されているので子息ともコミュニケーションが取りやすい。
 私の経験では、後述の(3)の内容をコミュニケーションした。
イ)後継者が決まっておらず、これから候補者を決める場合
 この場合は、下記の場合が考えられるが、中小企業診断士の役割としては非常に難しい。というのは、家族関係や親族関係、社内の人間関係までの領域だからである。この場合の経験では、深く入るとどこまでも入り込んでしまい、家族会議・親族会議のほか贈与・相続問題に絡んでしまったりする。その辺りの自制のラインをどこに引くかが重要なポイントとなる。私の経験では社長と色んな想定でのお話はするが、家族会議や親族会議など人間関係に及ぶ場にはお断りした。社長からは不満だったかもしれないが、一線を画す必要を感じているからである。結果的に後継者を決めずに(あるいは了解を得られなかったかもしれない)社長は次のウ)M&Aの方策を選択した。
ウ)M&Aの場合
 後継者がおらず事業継続するためには他の事業体から買収してもらうということで支援が果たせる。最終的な金額等は税理士や公認会計士など財務の専門家との連携が必要であるが、そこまでの仲介役である。具体的には、事業引継ぎ支援センター、民間のM&A会社への照会、自分のネットワークでの興味を示す会社への紹介も果たせる。
 この場合は、企業価値や魅力がなければ相手は関心を示さないので、財務諸表を時価評価や純資産の概算ぐらいは中小企業診断士として計算する力量が必要である。
ただ、M&Aでも下記の2つの場合があり、その概要程度の知識は持っておく必要がある。
a)株式譲渡(法人譲渡)、b)事業譲渡
エ)廃業・解散の場合
 後継者が決まらず、M&Aも出来ないとすると廃業・解散の選択しかない。個人事業所の場合は、事業所して所轄の税務署に廃業届けを出して、債務の履行ができれば廃業としてはそんなに面倒ではない。 
 しかし、法人の場合は株主総会の特別決議→解散登記および清算人の登記→債権届出の公告→残余財産の分配などの手続きがある。これには後述の専門家の支援が必要である。
 ここでの中小企業診断士の役割は専門家との橋渡しを行って、社長の負担を軽減する役割となる。
(3)以上から、経営者に進言する役割
 経営者とのコミュニケーションについては、前にも所々若干触れているがここでまとめて述べる。
[1]後継者が決まっている場合
 この場合は、現経営者と新経営者との仲介役や触媒役になって円滑な承継ができるような役割を果たす。コミュニケーションの内容は下記のような幅広い分野に及ぶ。
・株主構成とその持ち株比率
・これまで経営実績の振り返り、検証
・現在の抱える課題、解決の方向性
・今後の経営方針、力点を置く分野
・顧客や銀行など対外的利害関係者とのコミュニケーション
・承継のスケジュール
・承継の手続き(株式の譲渡も含めてであるが、これについては税制も関係するので後述する専門家も交えてコミュニケーションする場面もある)
 以上の内容については、後継者が現社長から見てどのような関係(直系の子息、親族、社員、他の第3者等)かによって変わってくるが、中小企業診断士は現社長と新社長の不安を少しでも軽減して、円滑な承継を実現するための役割を果たす。
[2]後継者が決まっていない場合
 これについては非常に難しい。候補者として誰がふさわしいかであるので、中小企業診断士は現社長に(色んなケースや要素等について)質問をしながら社長の表情や言質からいろいろ読み取って、社長の考えを整理して、結果として意識決定しやすくなるまでの支援を行う。

3.他の専門家を繋ぐコーディネータとしての役割
 今から20年ほど前は、家族も含めた親族が7割近くの比率で承継していたので、外部の専門家といっても株式の譲渡による税制の支援が主で税理士が多かったが、親族の比率は低下を続けて2012年では親族は4割強ほどになり、逆に内部昇格(役員、社員)は4割弱、外部招聘が1割半ば、他買収となってきている。つまり、親族以外が6割ほどである。(2014年版中小企業白書より) 見方を変えれば、それだけ承継のパターンが多様化しているので、単なる税制や相続関係のみならず、会社法など法人に関係する課題も多くなってきている。
 中小企業診断士としては、場面によっては以下のような専門家と社長をつないで、社長の意思決定支援や承継が円滑に進むような役割を果たす必要がある。事業承継には次のよう専門家につなぐことが想定される。以下に専門家から受ける支援内容を概説する。
[1]弁護士
・議決権制限株式や相続人に対する売渡請求など、会社法の各種制度の利用等
・後継者に経営権を集中しつつ、他の相続人の遺留分にも配慮した事業承継対策
・生前贈与や遺言、任意後見制度を活用した相続紛争防止
[2]公認会計士
・既存株主からの株式買い取り価格の算定
・M&Aによる会社売却価額の試算
[3]税理士
・暦年課税制度や相続時精算課税制度を利用した計画的な生前贈与
・納税資金を確保するための自己株式の取得
・現時点で相続が発生した場合の相続税額の試算
[4]司法書士
・戸籍等の調査、贈与・遺言等相続に関する不動産登記、商業登記等
[5]行政書士
・許認可の承継など、事業承継に必要な行政手続き等

以上

 

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