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中小企業診断士 資格更新論文

令和3年度(2021年) テーマ1「新しい中小企業政策の動向」

 

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士 本多 喜悦

※ 掲載論文の無断転載、無断使用はお断りしております


論題 中小企業は生産性の向上、そして業務方法の改革、新たな事業の仕組みの構築などのために情報技術の活用、さらにDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)への対応が必要になっている。中小企業がそうしたディジタル化を進める上での課題や取り組み方法について、実態を踏まえて中小企業診断士としての見解を述べよ。

1.ディジタル化の背景に
2021年の「中小企業白書」では、ディジタル化について次のようなことが述べられている。
全産業において、コロナ禍以前とコロナ禍以後では、ディジタル化の対する優先度が、前者は(高い+やや高い)で45.6%であったのが、後者では61.6%に急増している。これは、三密を避け感染症のリスクを下げるという直接的なことと、中小企業の生産性の低さを何とか高めたいという、これまでの内部的課題を改善したいという経営者の思いがあるからであると思う。
中小企業は大企業に比べて経営資源は不十分であると言われて久しいが、ディジタル化を進めるうえでICT関係のツール(ハード、ソフト、アウトソーシングなど)の調達費用が中小企業でも手が届き、運用も可能になってきた背景があると思われる。


2.ディジタル化の目的
これまで生産性の向上に取り組んできた中小企業の経営者はさらに良い機会と考えていると思う。コロナ禍で色んな諸施策が実施され、資金調達を含めた公的支援が得やすくなっているからでもある。この機会にディジタル化を進めて、他社との差別化や強みをさらに強くすしたり、弱みの程度を緩和する可能性があるからである。もちろん、コロナ禍以降のことを視野に入れての目的である。目的のKGIとしての指標は、売上の増加、利益の増加、付加価値の増加等であるが、KPIとしては次のような目的である。

(1)業務プロセスの検証と見直し
経験的には、中小企業にとってはこれが一番大事であるが、なかなか取り組みにくい課題であると思っている。
中小企業の仕事のやり方は、創業者やその親族が自分たちの財産も含めて人生をかけた歴史を作ってきただけに、その見直しというのは心理的にもハードルが高い課題である。
例えば、受注担当者ごとに顧客が決まっていて、それぞれの受注担当者が製造に指示して、総合的な調整機能が必要なのに、その機能が明確でなったりするからである。ディジタル化を進めるときは、部分最適の考え方から全体最適の考え方にシフトしなければならないが、その見直しは容易ではない。
しかし、ディジタル化を契機に業務プロセス全体を見直して、これまでの諸課題を解決のためにも、新付加価値創出、標準化、見える化、共有化等をキーワードに全社的に進める局面であると思う。

(2)業務の見える化による情報の共有化
業務プロセスの見直しにより、全体最適化や標準化が進むと見える化が容易になりやすい。設備の稼働、作業者のスキルの把握、品質(不良、歩留まり等)面の情報のモニタリングがしやすくなり、情報を必要とする関係者はいつでも当該情報の閲覧、入手が可能となり、情報の共有化が促進される。つまり、事実に基づく議論や意思決定の精度が高まり、その後の取り組みも円滑化が図られる。

(3)働き方改革も含めた若手人材の活躍の場の提供
前述の「中小企業白書」によると、諸外国(カナダ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカ)に比べると、長時間労働者の比率が高いことが目立つ。(特に、カナダ、イタリアの2倍以上)
これは、特定の社員への依存が高く(いわゆる属人化)、その比率が高いと判断される。日本の場合は勤務年数が長く、勤労の美徳概念も含めて、職務の経験や知識が個人にあることを示している。
ディジタル化はそこに風穴を開けることが出来る。個人の知識経験である個人知を組織知と変換して活用することが出来るのである。
つまり、特定の人に依存する体質を改め、若手の人材も能力発揮等で活躍できる場を提供できるようにする。

(4)新しいビジネスモデルの探索
ディジタル化は、新しい顧客、新しい価値を提供できる可能性をもった取り組みである。地域主体の顧客であったのをより広域に広げることもできる。また、B2Bであったビジネスモデルに加えてB2Cの分野にも参入できる可能性をもっている。
しかし、自社はどこまで何に取り組むのかを明確に組織として決めないことには限られた経営資源が有効に活用されない結果となる。
ディジタル化はそのような広い可能性を持つがゆえに、逆に自制的な判断も下す必要があり、換言すれば、攻めのプロセス、守りのプロセス、それらのタイミングをこれまで以上に明確にする必要があるともいえる。

(5)新しい組織文化の醸成
以上の課題に取り組んでいくと、これまでにない組織文化や風土が醸成されてくる。生まれ変わるぐらいのインパクトになると思う。それにふさわしい価値観に基づいた、経営理念、行動指針が策定されなければならない。
これも最終的には経営者の覚悟、本気度が必要となる。


3.ディジタル化への対応
上記の目的の達成のためには、次のような課題があり、その取り組みが必要と思っている。

(1)経営者の本気度、覚悟
 自分自身のこれまでの振り返り、コロナ禍による生活様式の一変、技術革新による経営環境の変化等から、自社のディジタル化を進めるための覚悟を決めることである。
一人ではもちろんできないので、経営幹部を説得して会社が一丸となって進めることが必要である。
前述の「中小企業白書」によると、アナログ文化が定着しているとかディジタル化に対する抵抗感があるという選択回答が最も多い。
これを少しずつ変えていくのが経営者の仕事でもある。日常的には、朝礼での訓話、パソコンのみならずスマホの利用、SNSの利用も自分から積極的に行い、社員に見せていことも良い取り組みであると思う。

(2)自社のディジタル化の範囲、定義化の決定
現在のディジタル技術は、幅広いプロセスに対してしかも深耕することができる。例えばVR、AI、ビッグデータの活用等である。中小企業として話題になっているから、いろんな分野に触手を伸ばすと、経営資源が分散して成果につながらない結果になってしまう可能性もある。
ゆえに、ディジタル化推進の中期計画(ロードマップ)の策定を推奨している。その場その簿の取り組みでは、一貫性が乏しくなり全体最適が見えづらくなる。しかも、ディジタル化は短期的な取り組みではなく中期的な取り組みと定義して、数年後のゴールを明確にして、単年度計画を立てていき、取り組むのである。
例えば、5年のゴールとしては、GW(グループウエア)、ERP、MRP、SFA等を上手くリンクさせて、受注、調達、生産、納品の一気通貫で管理するまでとして、今年度はまずは、営業プロセスは電話受注、FAX受注をなるべくしないようにして、中小企業共通EDI等の電子でデータにしていくとか、資材であれば在庫の受け払いにバーコードやQRコードを導入して、というような段階的な取り組みを行うことが肝要である。

(3)ディジタル化を進めるキーパーソン(人材)の確保、育成とプロジェクトチームの発足
中小企業にとって、ここが大変な課題であるかもしれない。しかし、外部からの即戦力的な確保ではなかなか難しいので、現在の社員を育てることも含めてキーパーソンになってもらうことが重要と思われる。
その理由は、ディジタル化にはディジタル技術や知識ではなく、業務プロセスを熟知している方がはるかに重要であるからである。
ICT等の経験や知識はベンダー等のアウトソースからも十分調達できるからである。
重要なのは、全体最適の視点で社内を見ることができ、いろんな部署とコミュニケーションや調整ができる資質を持った社員を任命して、ディジタル化を進めていく中で育成するイメージである。ゆえに、これまでの担当した仕事ができ、社員からの信頼が厚い社員から担ってもらうことが良いと思っている。
そして、社長の直轄のプロジェクトチームを発足させ、その社員がプロジェクトリーダーとなり、各部署から代表が参画して、定期的に一堂に会して、一つ一つ課題(例えば、自社と一緒に取り組んでくれるベンダーの探索も含めて)を解決して取り組む必要がある。

(4)社内への教育
これも重要な取り組みである。いくら社長や経営幹部、プジェクトメンバーがハード、ソフト、手順書等を用意しても、日常の業務を遂行する社員が積極的に取り組んでもらわないと変却って社内が混乱してしまう可能性もある。
プロジェクトが発足前から、前述アナログ文化からの転換やディジタル化への抵抗感を少しでも軽減し円滑な運用に向けて、その教育訓練を計画的に行うことが肝要である。中長期的には非常に重要なプロセスなので、経営者としては軽視してはならない。
例えば、ディジタル化の進展の状況(セキュリティも含めて)、当社の状況、中期的な目指すべきゴール、部門別教育(資材であれば、MRP等)の教育を行って、社員の不安や抵抗感を払拭しながら、進めることが、事の成否にかかわる。


4.まとめ
ディジタル化については言葉だけが先行している感がある。大切なのは自社の各種計画の実現や諸課題の解決の道具として、具体的なICT技術を駆使して、成長や付加価値の創出、生産性の向上、働き方の改善等に寄与するようにすることが大切と思う。
そのために、経営者や幹部が共通認識で社員を巻き込みながら具体的イメージを持って、ディジタルという道具を使いこなしていくことが肝要である。
中小企業診断士として、微力ながら支援していきたい。


以上

 

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