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中小企業診断士 資格更新論文

令和3年度(2021年) テーマ2「中小企業の知財戦略支援」

 

本多ビジネスコンサルティング
中小企業診断士 本多 喜悦

※ 掲載論文の無断転載、無断使用はお断りしております


 

論題 経済産業省の知的資産経営ポータルによると、「知的財産」とは、知的財産権(特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権等)のみならず、ブランドや営業秘密、ノウハウ等を含んだ目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものと定義されている。それを踏まえて、「知的財産」活用の重要性や有効性について述べるとともに、「知的財産」活用による成長戦略の支援方法について、中小企業診断士の立場から述べよ。

1.知的財産に対する中小企業の意識
これまで大方の中小企業は、自社の知的財産についてあまり重視してこなかったと経験的に感じている。その要因は、中小企業としては、激変する経営環境に対応し、生き残るために売上、利益、借入金体質からの脱却等、大企業とは違った視点の経営に焦点が当てられてきたからと思う。一言では、大企業に比べれば人材も含めた経営資源の不十分さからくるものである。 また、“知的財産”というと知的財産権に基づく、特許権、商標権、意匠権を主として特許庁に有料で申請しないと獲得できず、特許権は特に中小企業ではハードルが高く、なかなか入手できない権利と考えていた感がある。
しかし、長年中小企業と接していると、知的財産権の権利に戻づく資源より、顧客から発注があり、社会に存続している根本には知的財産権とは違ったノウハウや方法、競争力をもっていることが分かってきた。 
問題は、自社が社会に存続している競争力の源泉となっている経営資源についてはあまり意識してなかったからであると思う。製造業であれば、他社にないベテランの職人がいる、設備が新しくて品質が優れている、残業してでも短納期に間に合わせているなどである。
これらは、経営者が顧客要望等に追随していきながら、獲得してきたものである。しかし、私から見れば、他社にはない、プロセスやノウハウ、方法等があり、それが競争力や成長力の源泉であると感じるものがある。
また、経営者は日々の経営課題の対応や解決に忙しく、人材も不足していることから、自社の知的財産まで思いを巡らすことが、出来なかったと思う。
そのために、(自社より経営資源の豊富な)取引先から、試作品を見せて欲しいと言われれば喜んで見せていた例も少なくない。
苦労して獲得した各種のノウハウを自社の大事な経営資源として管理して、今後の成長戦略に活用して意識を今後はより強く持たなければならない


2.自社の競争力の再定義と重要性及び有効性について
(1)自社の競争力の源泉とある「知的財産」の確認と定義
自社がここまで存続してきた理由をここで、確認することが重要となる。それによって成長のために今後の力点の置き方が明確になり、その重要性と活用が明確になるからである。
 顧客が「なぜ自社に発注してくるのか」、「なぜ同業他社ではなく自社に発注がくるのか」を確認する必要がある。それは、経営者の視点、経営幹部の視点、部門長、担当者の視点、それぞれが若干異なるかもしれない。それらを整理して、競争力の源泉を共通理解する必要がある。
まずは、QCDがどうなのか、「品質、納期」は他社と変わらないが、コストが自社の優位性であれば、そのコスト形成力が、自社の知的財産とも言える。自社工場の生産性の高さなのか、外注先とのネットワークなのか、内職の一元的管理なのか、そのようなプロセスを確認して、自社の競争力の源泉をこの機会に定義することが肝要と思われる。

(2)定義した知的財産の管理
1)特許、実用新案、商標権、意匠権、著作権
 これらは、産業財産権としてそれぞれの法律(特許法、実用新案法、商標法、意匠法、著作権法)により、公開される反面独占権として保護されている。ゆえに、それらの管理面ではたやすいが、海外からまねされた時の対応のハードルが高い。それは費用面であり人的負担、時間もかかるからである。なので、特許に相当するが、特許申請はしないで使用する場合もあるが、他社が同様な技術開発で特許申請した場合は、先願主義の日本では不利になることもあるので留意しなければならない。
2)上記1)に該当しない知的財産
これは、多くのものがあり、代表的なものを列記すると次のようなものがある。
【1】工場見学時:工場見学や視察は、一般市民や学生はともかく、取引先(顧客、外注先)については注意が必要である。その道の専門家からみれば設備の配置、治具の状況、温度設定、社員へのインタビューなどで製造上のノウハウの一端が分かり、盗まれることもある。
 まして、写真や動画の撮影については秘密保持契約等を交わしたりして、その保護を確実にする必要がある。
【2】QC工程表の内容:いわゆるQC工程表の提出を求められたりすることがある。相手先は、品質保証の確認ということが多いが、管理パラメータ(乾燥時間、温度カーブ、コンベア速度等)が記述してあったり、検査測定方法やクリアランスも決めてああったりする。これを入手すれば海外の安い工場で製造させることもできる。
【3】品質保証の取り組み:不良品の発生原因やその対策も重要な知的財産である。特に、対策については、最新の不良対策としてのノウハウであるので、その管理は重要である。例えば、クレームが発生した顧客には再発防止策として納得していただく程度の開示は必要だが、当該顧客以外への開示やその程度も注意が必要である。
【4】技術指導ノウハウ:QC工程表には記述していない、工程管理や作業方法、監視方法などの経験知についても重要なノウハウなので、秘密保持契約等で守る必要がある。
【5】試作品:専門的から見ると試作品を手にすると、その作り方やノウハウが想像できることがある。当社の能力を認めてもらうために試作品を想定する新規の取引先候補には提供することも注意が必要である。
【6】図面の内容:図面にはまさに製品データが入っている。特に最近はCAD等による電子データになっていることが多く、社員が(既存契約に無い)電子メールに添付で送るようなことは、あってはならない。
【7】製品の原材料配合比率:これも製品そのもののデータであり、自社が色んな経験等を通して獲得した知的財産であり、重要な「知的財産」である。


3.成長に向けた知的財産の活用の支援
(1)公開しても良い「知的財産」と秘密にすべき「知的財産」の分別支援
中小企業を訪問すると、会議室に上記(1)の特許証や実用新案登録証が額に入れられて管理されていることがある程度、把握できるが、これからの中小企業にとってより重要になるのは上記(2)の知的財産である。多くの企業では、各部門でそれぞれ管理されているが、それを当社の「知的財産」として定義して組織として管理することが肝要となる。
その中で、秘密とするものと公開していいものを識別して管理が必要とされる。社内の人は、その知的財産の価値に気づいていなかったり、その分別に迷うことがあり、そこで他の企業の動向や業界動向から中小業診断士として助言する場合がある。また、その分別も状況によって変わってくるので、定期的な見直しが必要である。また、管理として一元化が良いのか分散化が良いのかは、当該中小企業の状況を見て判断しなければならないので、その支援も有効である。
(2)「知的財産」の社内活用支援
例えば、上記のQC工程表は社員の育成や安定した製品を製造するのに重要な情報を含んでいる。これは、設備が変わったりする4M変更が発生した場合は、必ず見直して社員へ後述の社員教育としての支援も重要である。
(3)マーケティング支援
知的財産を活用して、他社との協業やクロスライセンス、使用契約など、将来の自社に対して有効なツールとして活用する支援も重要である。中小企業診断士のネットワークから、仲介することも可能である。
(4)取引先との契約内容検討支援
経済産業省は、知的財産に関係する取引の適正化に向けて、特に大企業との間では不利な取引慣行が存在しているため、これまで述べた点について「知的財産取引に関するガイドライン」を公表している。これは、例えば、QC工程表の開示の要求等に対して、適切な契約書を締結して、秘密保持(知的財産保護)を確実にするものである。
 中小企業診断士として、そのような契約締結に支援することで中小企業のリスクを軽減して、商取引に進む一助となる。
(5)社員教育
知的財産について社員の啓もう、社内ルール整備の重要性、管理体制の確立など、幹部や一般社員への教育も重要な支援となる
(6)公的制度の活用支援
知的財産に関する公的支援も多数あることから、当該中小企業に適切な公的制度を紹介することも肝要である。例えば、SBIRによる特許料の減免、中小企業に対する特許料の軽減制度、発明協会等に設置されている知財総合支援窓口、(独法)工業所有権情報・研修館(INPIT)の営業秘密・知財戦略相談窓口等である。


4.まとめ
中小企業はこれまで自社の「知的財産」という分野に意識を置いてこなかった。置くとすれば、特許や実用新案、商標など法律に基づいたものが主と認識していた感がある。そのために中小企業の「知的財産」がそれと意識されず取引先に吸い取られて場面があったことは確かである。自社が社会に存続しているということは同業他社には無い独自の豊富な「組織知」としての「知的財産」がある。
経営者はそのことを強く認識・管理・活用して自社の成長につなげる意識をより強く持つことが肝要である。
中小企業診断士の一人である私もそのことをさらに肝に銘じて、中小企業の成長に微力を尽くしたいと思う。


以上

 

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